(第27回)こども目線のインタビュー術

2014年12月14日の衆議院総選挙特番でも、池上彰は俗に”池上無双”と呼ばれる切れ味鋭いインタビューで政治家たちに核心にせまる問いを投げかけ、本音を引き出していた。

特に安部首相に対して、「憲法改正に向けてこれから一歩一歩進んで行くということですね?」と質問し「そういうことです。」と貴重な言質をとったのは痛快だった。

これらの”池上無双”インタビューがどうして可能なのか。一つには「生放送終了直前の5秒間」と呼ばれるテクニックが使われている。これは生中継がつながっている時間は技術的にカウントダウンされており、あと何秒で切れるか時計で知ることができるのを応用したテクニックだ。「週刊こどもニュース」の11年間をはじめ、「首都圏845」などで生放送のキャスターを続けていてこそ身についたテクニックだ。

「首都圏845」などではメインのコメントを読み終わると、3秒から5秒位の余韻があるのだが、池上はこの数秒の間に台本にはないオリジナルのダジャレを詰め込んで、0秒きっかりで終わるのを得意技としていた。そのダジャレが良質であったかそうでなかったかはともかく、0コンマ1秒単位で終了間際の時間を使う技術は磨かれていった。それが今回も生かされていた。

政治家に10秒も時間を与えると、煙に巻いたような言い訳をする余裕を与える。池上は安部首相にそれをさせなかった。ラスト5秒のうち4秒で核心をついた質問をし、相手には1秒しか与えない。イエスかノーかで答えざるを得ない時間である。
今回も安部首相に対してこの問いかけならノーとは言わないだろう、という慎重な言い回しで最後の質問をし、ラスト1秒でイエスと言わせたのだ。

それ以外にも公明党が宗教団体である創価学会を母体としていることを、ズバリ公明党の議員に聞き、視聴者をハラハラさせながらそれを認めさせたことでも記憶に新しい。それまで視聴者はなんとなくタブーだと思っていたようだが、池上に言わせれば公然の事実で、誰もが聞きたいのに聞かなかっただけ。だから自分が代わりにズバリ聞いただけの話、ということになる。

池上が政治家にぶつける質問は、いつもシンプルで遠慮がない。素朴な質問をそのままぶつける。平易な言葉で聞くから相手も平易な言葉で答えざるをえない。どこか、こどもの質問の繰り出す無邪気な質問に似ている。こどもはしばしば「おじさん、どうして頭に髪の毛が生えてないの?」といった質問をすることがある。親は慌てて「そんなこと聞くもんじゃありません!」と叱るが、相手は「人は歳を重ねると髪の毛が抜けていく人が多いんだ。おじさんもそうだ。ハゲとも言うが、あまりいい言葉じゃないね」と答えればいいだけの話なのだろう。

「週刊こどもニュース」でも1996年の6月、宮城県で「カラ出張」をしたことにして経費をプールする公金の不正経理をしていたことが明るみに出た。当時の浅野史郎土宮城県知事は情報公開に積極的で取材を受け入れてくれた。池上はインタビュアーに中学生の女の子をあえて選び、「わからなかったら、わかるまで聞くんだよ」と耳打ちして送り出した。

浅野知事は、はじめのうち「公金支出に不適切な処理があったんだよ」などと答えていたが、こどもからは「わかりません」の連発。わかりやすく説明しようとする知事は、ついに「要するに、ウソついちゃったんだよ」と発言。「えー、ウソついちゃったの?」「ごめんなさい」という展開になった。知事は年末、今年一番厳しかった取材として、「こどもニュースのレポーター」と答えている。

池上はこの時、確かな手応を得ていた。政治家への質問に遠慮は無用。ストレートに最もみんなが知りたいことを聞き、平易な言葉で答えさせる。それこそが池上彰が「週刊こどもニュース」で現場取材を離れアンカーマンをやりながらも、現場取材テクニックとして身につけていったノウハウなのである。(つづく)

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